EU政策に修正圧力 欧州議会選で右派・極右伸長 「移民」「環境」不満の受け皿
欧州連合(EU)の欧州議会選では極右や右派のEU懐疑派勢力が伸長し、EUの移民対策や野心的な環境政策などへの修正圧力を高める可能性がある。経済低迷などへの不満がEU市民らの間で蓄積する中、ロシアに侵略されるウクライナへの支援に影響が出る懸念も拭い切れない。
最大会派の座を維持した中道右派「欧州人民党」(EPP)に所属するフォンデアライエン欧州委員長は開票結果を受け、「われわれは過激勢力に対する砦を築く」と強調した。ただ、親EUの中道3会派で過半数の議席を維持したものの、懐疑派の圧力に抗しきれるかは不透明だ。
遅れる景気回復
欧州議会選 何が右派伸長を招いたのか
欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会選挙で、「自国第一」を掲げる急進的な右派勢力が伸長した。EUの移民政策や環境規制への修正圧力が強まるのは避けられまい。
選挙では、中道の「欧州人民党」など親EUの主流3会派が、定数720のうち400議席を獲得して過半数を維持した。
一方、右派勢力は過去最多となる2割以上の議席を得た。5年前の前回選挙で躍進した環境政党は議席を大きく減らした。
右派は、ロシアのウクライナ侵略に伴う物価上昇や移民・難民の流入などに対し、EUが十分な対策を打っていないと批判していた。こうした主張が有権者に浸透したのは間違いない。
脱炭素など先進的な環境規制を巡っても、理念先行で、市民の経済的な負担増への考慮が欠けているという反発も強かった。
EUは選挙結果に表れた民意の背景を分析し、課題解決に役立つ堅実な政策を展開すべきだ。
懸念されるのは、EU統合を推進してきたフランスとドイツで、EU離脱や排外主義を掲げていたポピュリズム(大衆迎合主義)の右派が躍進したことである。
フランスでは右派「国民連合」が、マクロン大統領率いる与党連合の2倍以上の議席を獲得した。マクロン氏は大敗を受け、下院を解散した。選挙結果が政権に与えた衝撃の大きさを物語る。
ドイツでは右派「ドイツのための選択肢」が、ショルツ政権を支える与党3党のいずれの議席をも上回る勢力を獲得した。
右派が台頭した国々では、政治指導者やエリート官僚がEUの協調を優先した政策を打ち出した結果、市民生活にしわ寄せが及んでいるとの不満がくすぶっていたのではないか。
米国で「自国第一」を掲げたトランプ前大統領への支持が広がったのと似た構図とも言える。
欧州は人権や多様性の尊重、民主主義を基本理念としてきた。欧州が内向きになり、国際秩序に悪影響が及ぶことを懸念する。
右派勢力が今後、対露制裁やウクライナ支援の見直しを求めてくる可能性も否定できない。
選挙前にはロシアが欧州議会の議員に金銭を提供していた疑惑も発覚した。対露政策を巡るEU内の足並みが乱れ、ロシアを利することがあってはならない。
日本は価値観を共有するパートナーとして、EUとの連携を重視してきた。EUが政策に地道に取り組めるよう後押ししたい。