東京を拠点に活動する劇団、「ハイバイ」が高知で公演を行います。上演されるのは認知症を題材にした作品です。高知公演を前に劇団の主宰で劇作家の岩井秀人(いわい・ひでと)さんに作品について聞きました。
東京の劇団「ハイバイ」の劇作家・岩井秀人(いわい・ひでと)さん。
「ハイバイ」は、2003年に岩井さんを中心に結成され、”ありえそうでありえない世界”を描いてきました。結成20周年を記念して、全国4か所で公演が行われていて1月18日、高知公演を迎えます。
演目は「て」。「ハイバイ」の代表作です。
「て」は、岩井さんの家族を巡る実際の出来事を描いた作品です。認知症の祖母の面倒を見るために、両親や兄弟が集まって生活した際の物語です。
(岩井秀人さん)
「その家がまた僕らきょうだいの父というのが、結構もう”ぶん殴り系の親”で。もうバラバラになっていて、姉の号令のもと、『もう父も年だから昔ほどの暴君じゃないだろうから家族やり直そうよ』という感じで再集合するんですけど、結果的に前よりも、少し仲が悪くなって解散するという一件があったので、その時期のことをちょっと書いてみようと言って書いてみたんですね」
祖母の認知症について、岩井さんと、岩井さんの父と兄では、考え方や受け止め方が違ったといいます。
(岩井秀人さん)
「その当時の父とか認知症の祖母に対する兄がすごくひどい態度だったんですね。もう認知症だからしょうがないのに、忘れたことをすごく詰めたり責めたり…。冷蔵庫にリモコン入れたりとかするんですよ認知症って。笑って済ませばいいのに『何で入っているの?』みたいな。『この間も言ったじゃん』みたいに本気で詰めていたから、『鬼だ悪魔だ』と思って」
そんな家族を客観的にみていたのが岩井さんの母でした。
(岩井秀人さん)
「『あの時のお兄ちゃんひどかったよね』と(母に)言ったら、『いや、全然そんなことないよ』と(母が)言って、『どういうこと?』って言ったら、『いや、お兄ちゃんは別に腹を立てたんじゃなくて、受け入れられてなかった。認知症を受け入れられてなかったんだと思うよ』って」
母から新たな気づきを得た岩井さんは、「祖母の認知症は仕方がない」という自らの視点と、祖母の認知症を受け入れられない父と兄の気持ちを知る母の視点という2つの視点で家族の姿を書くことにしました。
この作品を通して岩井さんは、身近な人が認知症になることを想像し、不安を生むだけではないことを伝えたいといいます。
(岩井秀人さん)
「人間はやっぱりいろんな機能を失っていく、みるみる失っていくわけですよね。そのときに全部つまびらかに自分の機能っていうのを覚えていて、”俺はこれができていたのにできなくなって俺はこれができてない、これができなくなった、あなたはこんなに美しかったのに、なんかしわができてしまった”みたいなのを全部克明に覚えてるよりも、ぼんやりしていた方が何かそういうことに、寛容でいられるし、僕はなんか死んでいくための、何か1個のすごくいいスマートな機能な気がしているんですよね」
(岩井秀人さん)
「何か自分のこと忘れたとか、何かのことを忘れたというのが、本当にネガティブなことだけなのかどうかっていうのは、そんなにあまり傷つく方に毎回持っていかなくてもいいんじゃないのというふうには思います」
高知公演は3年半ぶり。気軽に見に来てほしいと、岩井さんは話します。
(岩井秀人さん)
「純粋に『何か劇やるんだってね。ちょっと見に行こうよ』みたいな感じで、楽しみに見に来てくれるお客さんという感じがしてすごく好きですね。家族や恋人と一緒に見に来ていただければと思います。劇場でお待ちしております」