人工呼吸器を装着するなど日常的に医療行為が必要で県内では推計150人いるといわれる「医療的ケア児」。学校で学ぶには環境や金銭面で高いハードルがあります。新たな教育を受けるために一歩を踏み出した親子に密着しました。
母・塚原絵美里さん:
「これが芽衣ちゃんのランドセル。1年生の一学期しか使っていなくて、まだピカピカ」
「背中にはからえないけどバギーにからわせていきたい」
佐賀市在住の塚原芽衣さん10歳。人工呼吸器を装着したんの吸引など日常的に医療行為が必要な「医療的ケア児」です。
2017年の夏、当時小学1年生の芽衣さんは夏休みの終わりに発熱し、かかりつけ医を受診しました。その後自宅で容体が急変し救急搬送されました。
母・塚原絵美里さん:
「自分の免疫が自分の脳を攻撃してしまう病気。簡単に言うとそう先生から聞いている」
病名は「自己免疫介在性脳炎・脳症」。脳幹という脳の一番大事な部分が自分の免疫に攻撃される難病です。ICUや一般病棟で治療を続け自宅へ帰ってきましたが、その後も救急搬送や入退院を繰り返し現在やっと安定してきました。
母・塚原絵美里さん:
「病院に行って元気に帰ってきて、小学校に登校するものだと思っていたので。最初のころは夢みたいな現実じゃないんじゃないかな…」
今月4日、芽衣さんは4カ月ぶりに小学校へ登校しました。
芽衣さんは目は不自由ですが、耳はしっかり聞こえます。歌声が聞こえるとわずかに動く両腕でリズムをとります。実は芽衣さん東与賀小学校への登校はこの日が最後。
母・塚原絵美里さん:
「芽衣ちゃんは金立の特別支援学校に転校することになった」
「芽衣ちゃんをクラスの友達として迎え入れて仲良くしてくれて、本当にありがとうございました」
そして授業が終わると…駆け付けた父・裕さんも芽衣さんの笑顔をしっかり写真に収めます。
父・塚原裕さん:
「最初は(子供たちが)どういう反応をするのか(不安が)あったけど本当にいい子たちばかりで」
「子供たちがいると芽衣もすごく笑顔で良い顔をしていた」
女子児童:
「一緒に歌を歌って芽衣さんが喜んでいた。自分で手でリズムを取っていた」
東与賀小学校に在籍していた3年半で登校できたのはたった2回でした。県によりますと県内の医療的ケア児は推計150人。医療技術の進歩などで5年前と比べると1.5倍と年々増えているといいます。そのうち特別支援学校に在籍しているのは44人。地域の学校に通っている子供もいますが、なかには特別支援学校に通うことすら難しい子供もいます。
かつて県教育委員会で特別支援教育に携わっていた梶原紳一校長は地域の学校ではバリアフリーといった学校の環境や教員の専門性、医療的ケアが必要な場合の看護師の配置など制度的な面で課題が多いといいます。
東与賀小学校梶原紳一校長:
「行政、教育や福祉と連携しながら少しずつ一歩一歩前進してもらえたら、地域の学校や特別支援学校にもう少し通いやすい環境になるのかなと思うので今後に期待したい」
この日は、来月から通う特別支援学校の先生たちが自宅での様子を見に来ました。特別支援学校に転校を決めた理由を母・絵美里さんは…
母・塚原絵美里さん:
「今までは家でケアやリハビリなどどちらかというと生きるためのことばかりをしていたのでこれからは小学生らしく、芽衣ちゃんができることを伸ばしてもらって芽衣ちゃんなりの成長ができる勉強をさせてもらえたら」
一方で、心配なこともあります。
母・塚原絵美里さん:
「転校するにあたっても通学バスに乗れなかったりとかどうしても(片道)40分から1時間の距離を通わないといけなかったりと通学の面では不安やハードルがある」
芽衣さんの場合多く医療機器が必要なことや通学中もたんの吸引などをしなければならないため通学は簡単ではありません。福祉タクシーで行くにしても福祉車両を購入するにしても金銭面でハードルがあります。
始業式を控えたこの日、母・絵美里さんの姿は県教育委員会にありました。
県教育委員会特別支援教育室城戸幸一係長:
「車での送迎が難しい、訪問教育が難しい、このままの状況では教育を受けられる機会が保証できないんじゃないかということでいろいろ検討させていただいた」
県教育委員会によりますと、保護者の車での送迎や寄宿舎それにスクールバスの利用が難しく訪問教育も困難な場合に限り、福祉タクシーなどの運賃を就学奨励費で賄えるよう基準が来年度から明確化されたといいます。芽衣さんが特別支援学校で義務教育を受けることで、動きや言葉の発達につながると、母・絵美里さんは考えています。
母・塚原絵美里さん:
「病気はしてしまったけれど普通の小学生だと思っているので心は。学校に行きだして好奇心がどんどん出てきたら発する言葉も変わってくるのかな。成長が楽しみ。ねぇ芽衣ちゃん」
医療的ケア児が増えていることを受けて、県では今後、相談窓口を設置し、医療的ケア児の実数の把握や家族の負担軽減につなげたいとしています。